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創立30周年記念車誕生秘話

2016年9月17日、オーテックジャパンは創立30周年を迎えます。この30周年の節目に、オーテックジャパンを育てて下さったお客さまへの感謝として、オーテックがこれまで培ってきた技術と経験をおしみなく注いだ「30周年記念車」を製作することといたしました。このクルマにかける、私たちオーテックジャパンの想いをお伝えいたします。

※みんカラブログ「AUTECH 1000 Stories」の内容を掲載しています。

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  • 第四話
  • 最終話
【第四話】レースエンジン開発のノウハウで気持ちのいいストリートエンジンを作る
SV開発部 皆川 茂蔵

この車のパワートレーンの狙いと変更内容について説明させて頂くのに先立ちまして、まず、私の所属するオーテックのパワートレーン開発グループについて少し紹介させて頂きます。

オーテックは、これまでにも、いわゆる“オーテックバージョン”と名乗る高性能シリーズや、SRなどといったチューンナップバージョンの開発を行っており、現行車でもエルグランドライダーハイパフォーマンススペックやNISMOシリーズの開発を担っております。
また、これと並行して、古くから日産のグループCカーや、GTカーといったレース用エンジンの開発にも携わってきていることも、皆様ご存じの通りかと思います。

今回のA30のパワートレーンは、私たちが持つノウハウを最大限活用した、まさに技術の集大成ともいえるエンジンにしてやろう!という意気込みで着手しました。

満たすべき要件として、ひとつめは、当たり前ではありますが、オーテックのファクトリーカスタムとして、安心して所有できること。ふたつめは、これまで携わってきたレース用エンジンのノウハウを、市販車に適用すること。そしてみっつめとして、この特別なエンジンを、我々自身の手で組むことです。

パワーユニットのチョイスにあたっては、ブログやフェイスブックで皆様から寄せられたご意見を拝見しながら方向性を吟味し、最終的には下記のような出力特性を目標にすることにしました。

ここで比較の対象としているボレロRとは、これまでに何度かご説明している社内有志が製作した車であり、このエンジンはHR15DEをチューンナップしたものです。

ボレロRにて十分以上の実用性能を確認していたため、中低速域のトルクはこれをベンチマークにすることにしました。 そして、高回転については、ボレロRの時には課外活動ゆえに着手できなかったことにチャレンジし、高回転まで気持ち良く回る、右肩あがりの特性にすることを目指しました。レブリミットは7100rpmまでアップさせることを目標としました。

この狙いを達成させるためのキーアイテムとして、まずベースエンジンは、十分な中低速トルクを確保するためにK13マーチに搭載できる最大排気量であるHR16DEエンジンをベースにチョイスしました。

高回転化を実現しつつ信頼性を確保するには、振動を低減することによりシリンダーブロックへの入力を軽減させることと、回転系の部品の強度アップが必要となります。そのために、バランス率を向上させたクランクシャフトや高強度のコンロッドを採用しました。

また高回転で伸びる出力特性とするために、専用カムとバルブスプリングに加え、ポート研磨を追加しさらにダイナミックバランス取りと手組みとしています。もちろんこのエンジンに合わせて、燃料ポンプを大容量化し、専用ECMなどの車両関連部品も変更しています。

それではここからは個別の説明をいたします。

まずは、クランクシャフトです。
一般的に高回転化には、フルカウンター化やベアリングビーム化などの手法で高回転化を実現しますが、今回のエンジンでは、クランクの重量アップを最小限に抑えたいと考え、カウンターウエイト部に2個づつ、鉄の2倍以上の比重を持つタングステンを追加する構造を採用し、バランス率の向上を実現しています。このタングステンを追加する技術は、市販車のクランクをベースにレース用チューンをする際に、アンバランスの修正に使われているものです。

カウンターウェイト部に、特殊な工具を用いて直角方向で高精度な穴加工を行い、クランクを百数十度に加熱した状態(熱膨張)で、液体窒素で冷却(収縮)したタングステンをはめこみ、常温に戻すことで、二度と外れない追加ウェイトとしています。

また、通常のエンジンでは、クランク単体でダイナミックバランス取りをしますが、A30では、回転部品をアッセンブリーした状態でダイナミックバランス取りをします。このような作業は、組み工程、バラシ工程を考えると量産ではありえない作業ですが、今回は手組みだからこそできる手法として実施することができました。

このようにアッセンブリー状態でのバランス取りを行い、さらに管理規格を厳しくすることで、アンバランス量は、標準エンジンの1/5以下まで抑えることができ、さらに、ピストン・コンロッドについても重量合わせを行い、重量バラツキについても標準エンジンの1/5以下に抑えることで、さらなるバランス向上を実現しています。

コンロッドについては、強度アップのために、A30専用設計となっており、材料変更をしたうえで総削りとすることで20%の強度upと5%軽量化を達成しています。また、コンロッドボルトも高強度品に変更したうえで、組み付けにはボルトの伸びを管理することにより、ビッグエンドの真円度を確保し、クランクとのフリクションを最小化することを実現しています。

つづいてシリンダーヘッドは、インテークのポートを研磨することで単体での空気流量を5%程度向上させています。

実はここに非常に大切なことがあります。それは、ポートは単にピカピカに磨いてしまうと燃料の霧化を妨げてしまうため、適度な粗さをのこした仕上げにする必要があるということと、そのうえでかつ、気筒間のバラツキを最小化しないとエンジンがきれいに回らないということです。そして、たった1台きりの車をつくるわけではないので、完成車した1台1台が均質である必要もあります。これには、豊富な経験と高度な技を持った職人の技術が必要です。

この作業は、1990年に日産がルマンで日本勢で初めてポールポジションを取った時の車のエンジンを開発し、そしてエンジンの組み込みも行った匠が直接手掛けます。

カムシャフトは、高回転までトルクが落ち込まない特性にするためにリフトと作動角に拡大した専用設計をしています。

バルブスプリングは、専用設計により最小のばね荷重UPに抑えて、バルブジャンプの抑制と高回転での抵抗ミニマム化を図っています。

そして以上のエンジン部品を先ほど紹介した、ルマンでポールポジジョンを取ったオーテックの匠の手で丁寧に丹精込めて高精度に手組みします。この匠が手組したエンジンの証として、エンジンルーム内にこのような「Hand build in Chigasaki」のエンブレムを取り付けます。

さらに、エンジンだけでなく、これらの車両部品についても気を配り変更しています。
まずラジエータキャップの開弁圧アップや、大容量燃料ポンプの採用、点火時期や燃料の調整などを行うECMも専用品です。
そのほかにも、ドライブシャフトはシャフト径をupすることで捩り剛性を向上させています。
また、シフトレバーについても、4点の取付点をリジッド化し、操作の剛性感を向上させました。

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